倒産体験日記

倒産社長のリアル体験日記

労務手続きと資産の現金化

 

労務手続き

破産手続きの開始決定後にまず行ったことは、従業員の労務関係資料の作成です。

ほとんど準備が出来ていない状態で破産手続に入った為、雇用保険資格喪失届、給与支払報告書、住民税異動届、社会保険料資格喪失届、未払賃金立替制度の申請書等、通常退職者が出た場合に行う手続きの全従業員分の資料作成を行いました。

もちろん、従業員が多ければ多いほど作業量が多い為、大変な作業になります。

私の場合、社労士がいましたが債権者でもある為にお願いは出来ず、私自身でこの資料作成を行いました。

これらの手続をしてからでないと、「未払賃金の立替制度*1」の手続が出来ません。

私の会社の場合は、解雇月と給与〆日が数日過ぎていた為、翌月の2か月分が対象となりました。また、立替払い制度は未払賃金の8割が対象となります。倒産に伴う解雇予告手当は賃金では無い為、この制度の対象とはならないそうです。

また、取締役等の役員報酬は対象となりません。

社長を始め取締役は責任者なので、こういう事態は保護の対象となりません。

本当に‟責任者”という立場の重みを感じました。

しかも取締役でもないが、代表者の妻や子供などもし同居している親族が社内にいた場合の給与も基本的には支給対象外となるみたいです。

2回目の従業員説明会

これらの資料を作成後、2回目の従業員説明会を破産管財人と申し立て弁護人と共に今後の年金や健康保険の切り替え・未払賃金の立替制度の説明を行いました。

従業員と顔を合わせるは精神的には辛くなります。しかし、従業員も初めての事なのでどう手続きが進んでいくのか理解をしていなかった為、丁寧に説明致しました。

2~3名程欠席者がいましたが、ほぼ全社員が出席しました。

まず私が集まってもらったお礼と、給与未払いになってしまった事について謝罪をしその後に申し立て弁護人から立替払いの説明や社会保険の切り替えの件、失業保険の件など手続きの関連について説明を行い、その後管財人から補足を行いました。一通り説明を終えると、質疑応答に移ります。

私は終始うつむいたままです。

ここで、ある従業員から私に対しての意見がありました。

内容としては、なぜ一言も相談してくれなかったのかという事です。

その方は、社歴が一番長く先代の時代から会社の管理職を担っていた方です。

私も気持ちはよく理解できます。

しかし、これは代表者にしか理解できないと思いますが、支払いが出来そうにない時や給与を払えないことが分かったとき、さらに会社が本当に倒産しそうになっているときに通常の精神状態では無いのです。

私の場合は、妻に出すら直前までは本気で相談できませんでした。

この様な時に相談しても解決策が見つかるわけもなく、それよりも周りにこの事実が知れ渡る恐怖に襲われます。

「気持ちは理解できるが相談できるわけないよ…。」

情けない話ですが、これが正直な気持ちでした。

1時間程で説明会も終わり解散となりました。

資産の現金化

会社の資産が破産管財人へと引き継がれたため、今後は管財人が資産を現金に換え債権者への配当するために徹底的に会社の資産の把握をしていく事となります。

それぞれの事業所にある資産で現金に出来る物はなにがあるのか、会社の現金の流れを徹底的に調べて、少しでも怪しい点は次々と質問されると思います。

一番早く現金化されたのは社用車です。

中古車買い取り業者等、見積もり依頼が簡単で早くすぐ買い取り先が見つかりました。

また私の事業内容は小売業でしたので、主な資産は‟在庫”でした。

有価証券は直前に現金化していましたし、事務所や店舗は賃貸、在庫が会社の資産価値としては1番だったのです。

どう処分したかというと、入札になりました。

管財人と私で在庫をまとめて買ってもらえそうな業者を探し、大手小売業から地元の問屋、メーカーなど様々な業種へ結果的に5~6社程に声を掛け、一番入札額が高い会社へ売却する事となりました。

一般的にこのような商品は、元値から相当額安く買い取られ、市場価格より安価で売りさばかれます。メーカーからすると自社のブランドが安く売られることはもちろん嫌がります。仕入先には申し訳なく、非常に悲しい想いです。

他の資産は、事務所や店舗の什器備品等です。

原状回復がそれぞれ必要になりますので、その前に事務所や店舗内のこれらを処分する必要があります。商品と同様に管財人は破産関係の依頼をよく受けますので、倒産会社の備品関係を一括で引き受けてくれる業者を何社か知っています。そこへ声を掛け一括で買い取ってもらう事となりました。

 

 

 

*1:未払い賃金立替制度~企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払いする制度。全国の労働基準監督署や独立行政法人労働者健康安全機構で制度の実施をしている。